シークレットシューズにつながる厚底靴の歴史

シークレットシューズにつながる厚底靴の歴史

シークレットインソール インヒール シークレットシューズ 背が高くなる靴

政治や演劇で必要とされたシークレットシューズの歴史

厚生労働省の統計によると、日本人の30歳から39歳までの2015年の平均身長は男性172センチ、女性が158.2センチとなっています。身長も個性ですから、本来は高くても低くても気にする必要はないのですが、さまざまな理由やニーズによって、身長を高く見せる靴の開発は昔から世界中でなされてきました。最近ではビジネスシーンなどでシークレットシューズを愛用する人がいます。見た目は普通のシューズとまったく変わらないのに、靴の内底の部分がつま先部分から踵方向にむかってなだらかに高くなっており、その高さの分だけ身長が高く見える効果があります。このタイプの靴を履くことで、実際の身長よりも高く見せることができるだけでなく、姿勢を美しく保つことができるという利点があります。女性がハイヒールを履くと背筋がすっとまっすぐ伸びて、スタイルだけでなく姿勢もよく見えるのと同じ効果です。

実際よりも背を高く見せることができるという観点で、シークレットタイプの靴の歴史をさかのぼると、いわゆる厚底靴に至ります。清朝最後の皇帝を主人公にした映画をご覧になった方は気づかれたと思いますが、身分が高い満州貴族は趣向を凝らした美しい厚底靴を履いており、それは権威の象徴の一つでした。

芸術の舞台でも京劇には厚底靴をはいた主人公が登場しますし、ヨーロッパにおいても厚底靴が流行した時期があります。古代ギリシャの劇場ではメインの人物を際立たせるために厚底靴が使われました。また18世紀ごろからは、馬車を引く馬の排泄物が道路にまき散らされることが多かったので、この汚物や汚れを避けるために厚底靴が流行しました。このように厚底靴の歴史には、身長を少しでも高く見せる必要があったり、芸術上の観点から効果があったりと実務上の理由が背景にあります。

こうした歴史上の厚底靴と現在のシークレットタイプの靴とでは決定的な違いがあります。歴史上の厚底靴は靴のソールの部分が分厚くなっているタイプで、だれでも一見してわかるものでした。シークレットタイプの靴は逆に誰にも知られないように靴の内底に巧みな工夫を凝らしています。両者は開発目的が全く異なるので工法も見た目も全く違うのですが、歴史的に見れば、靴を厚底にするという創意工夫という点ではつながる系譜です。

文化や流行を反映した花魁下駄と厚底ブーツ

シークレットシューズを履くと背が高く見えるだけでなく姿勢もよくなるので、歩く姿も美しく優雅なイメージを作り出します。この視点で、日本の厚底靴の歴史をひも解くと、花魁が禿や振袖新造らを引き連れて練り歩く花魁道中の際に履いていた三枚歯の花魁下駄も一種の厚底靴的な要素を含んでおり、広い意味でシークレットシューズのルーツの一つです。花魁は18世紀中頃の京都が発祥の地とされ、その後江戸などでも人気を集めた女性たちです。花魁道中では、高さが約18センチ、重さも相当ある特別な三枚歯の下駄を履き、八文字と言われる独特の凛とした歩き方でしずしずと進んでいきます。花魁にとっては自分の背が高くみえ、風情ある歩き方ができる花魁道中の三枚歯下駄は自分の価値を強くアピールするための必須アイテムでした。

シークレットシューズのルーツとなる厚底靴に関する最近の事例としては、1990年代に女子高校生など若い女性に大流行した厚底サンダルや厚底ブーツがあります。ソールの高さは15センチから20センチ近くあるような物まで流通していました。当時から人気だった女性シンガーが厚底ブーツを履いたこともあり大ブームになりました。ただ、これらはほぼ女性専用であり、男性用の厚底サンダルや厚底ブーツはほとんど見かけることはありませんでした。

これらの厚底靴は基本的に靴の裏側全体が分厚く、当然ながら外見上すぐに分かります。最近では踵の部分はハイヒールのような形状にした商品もありますが、一見して分かるという点では同じです。その点、身長が低い男性のニーズが高いシークレット型の靴やブーツは内底を巧みにかさ上げした工夫がしてあるのがポイントで、外見上は普通の靴とあまり見分けがつかないという点が重要になります。

知られたくない気持ちを考慮した創意工夫

中国や欧州で流行した厚底靴は、権威付けや芸術上の効果などを目的に改良が重ねられ、全体のデザインや履き心地なども考慮されていきました。厚底靴の歴史は靴の外見上の美しさだけでなく、それを履く人々の足元や姿勢の美しさ、さらには歩く動作の優雅さまで演出する総体的な創意工夫の系譜であり、そのスピリッツは現代ではシークレットシューズとして進化し、多くのユーザーを満足させています。昔の厚底靴との決定的な違いは、履いていることを他人に知られたくないという気持ちに寄り添った靴だということです。

足の長さや身長は本人にはどうしようもない事ですし、少しでも高く見せたいという気持ちを抱く人がいることは当然です。そうした人々の気持ちを考えた製品を開発することは意義があります。

現代ではシークレットタイプの男性用靴は演劇、映画、テレビ業界などでも活躍しています。男性俳優の身長がパートナーの女優の身長より極端に低かったりすると演出上困るシーンもあるからです。また女優が男役を演じる演劇の場合も、娘役の女優との身長のバランスを考慮しなければならないケースもあります。人に見せるのが目的となっていたかつての厚底靴サンダルなどと決定的に違うのはこの点で、外見上は違和感なく背が高い男優に見えることが重要です。しかも若干つま先立ちの状態になるのでかえって姿勢が良くなり、見栄えがする効果が生まれるという点でも、芸術界においては重要な舞台アイテムとなっています。

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